猫の役所

 「やぁやぁ、よくきてくださいました。」
広報部の猫は次郎にうやうやしく礼をしました。
「ここの長官はどなたですか。まず挨拶したいのですが。」
次郎もかしこまって言いました。
「ええ、あちらの、一番奥の机にいるのがそうです。ついてきてください。」
猫は長官の方に歩き出したので、次郎もついていきました。机の前まで来ると、猫が次郎を紹介しました。
「こちら人間の村田次郎さんです。見学者第一号です。」
書類に目を通していた長官が顔をあげて、いいました。
「これはこれは、わざわざ来ていただいて。近頃は情報開示だとなんだとうるさいので、こうして見学者を募っているのです。」
「そうですね、猫の役所があることじたい、あまり知られてないようですから。」
次郎がちょっとおかしそうに言いました。それを聞いた広報部の猫はちょっと泣きそうな顔になりました。
「では、どうぞ、ごゆっくり。」
長官はそういうと、また書類を読み始めました。次郎は端のほうへ行って、役所の様子をしばらく眺めていました。その横で、広報部の猫は、ひとりずつ、仕事中の猫を指さしながら紹介していきました。
「あの長官のとなりの机にいるのが次官です。あっちにいるのが書記、その隣が一等官。こちらにいるのが二等官、三等官です。」
「三等官はずいぶん一生懸命働いてますが、二等官は居眠りしているようですね。」
次郎が言いました。
「長官の席からは二等官が見えないのです。だからたいてい二等官は眠っているのです。他の猫も忙しいので気にもとめないのです。」
広報部の猫が説明しました。
「二等官と三等官はみたところほとんど年齢が変わらないようですね。どうして等級が違うのですか。」
次郎がたずねました。
「二等官は長官と同じく、いちょう山学校を卒業しています。優秀なのです。三等官はどんぐり山学校ですから。僕はぶな山学校です。」
広報部はちょっぴり胸をはっていいました。次郎はどの学校の名前も初めて聞きました。
「僕は氷沢尋常小学校しか聞いたことがないようですね。」
「次郎さんの学校ですね。あそこの鐘の音で僕らは仕事を始めたり、終わらせたりするのです。ほら。」
広報部の猫が耳を澄ますようにしました。すると、小学校の鐘の音が聞こえてきました。すぐに長官が立ち上がっていいました。
「諸君、五時の鐘が聞こえてきた。今日の仕事はここまでとする。ご苦労であった。」
みんな机の上をすばやく片付け、帰る支度をしました。二等官もとっくに目が覚めて、そそくさと帰り支度をしていました。
「では、次郎さん、本日はありがとうございました。お見送りしますよ。」
広報部の猫と次郎は玄関の方へ一緒に歩いていきました。広報部の猫は次郎にひとつ礼をして、ききました。
「次郎さん、今日の見学はどうでしたか?」
次郎は答えました。
「ええ、なかなか興味深かったですよ。ただやっぱり、いちょう山学校とか、どんぐり山学校とかは、ちょっとよくわからないようです。では、さようなら。」


あとがき
 わかる方にはわかると思いますが、この作品は、宮沢賢治へのオマージュです。「どんぐりと山猫」「猫の事務所」が参考となっています。
 この作品自体については、語ることもないので・・・